
旅館業の開業を検討している皆さん、特に「旅館・ホテル営業」や「簡易宿所営業」における「フロント」の要件について、複雑だと感じていませんか?「玄関帳場(げんかんちょうば)」とも呼ばれるこの設備は、宿泊施設の顔とも言える重要な場所です。
近年、ICT(情報通信技術)の進化や人手不足の深刻化に伴い、フロント業務の無人化・省人化への関心が高まっています。令和7年(2025年)4月1日からは名古屋市で新たな条例が施行されるなど、地域による規制も多様化しています。
旅館業におけるフロント要件と、ICTを活用した無人運営の可能性について、最新の動向を踏まえて説明します。
旅館業の分類とフロントの役割
旅館業とは、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を指します。大きく分けて以下の3つに分類されます。
◇ 旅館・ホテル営業
簡易宿所営業と下宿営業以外の宿泊施設。一般的なホテルや旅館がこれに該当します。
◇ 簡易宿所営業
宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備が主となる施設(例:カプセルホテル、ゲストハウス)。
◇ 下宿営業
1ヶ月以上の期間を単位として宿泊料を受けて人を宿泊させる営業。
「玄関帳場」または「フロント」は、旅館やホテルの玄関に付設された、会計帳簿等の記載や宿泊客との面接を行うための設備です。その主な役割は、宿泊者の本人確認、鍵の受け渡し、宿泊者以外の出入りの確認、そして緊急時の対応です。
フロント要件とICTによる代替

旅館業法上、「ホテル営業及び旅館営業」の施設には、宿泊者と面接するのに適した玄関帳場、またはそれに代替する厚生労働省令で定める基準に適合する設備が求められます。一方で、「簡易宿所営業」については、法律上は玄関帳場の設置義務はありませんが、「望ましい」とされています。しかし、多くの地方自治体では、独自の条例(いわゆる「上乗せ条例」)で玄関帳場の設置を義務付けたり、より厳しい基準を設けたりしているため、注意が必要です。
旅館・ホテル営業における玄関帳場の代替設備として、厚生労働省令では以下の4つの機能を満たすICT設備が想定されています。
◇ 緊急時における迅速な対応
事故や緊急時に、宿泊者の求めに応じて通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけられる体制が整備されていること。
◇ 宿泊者の本人確認
宿泊者名簿の正確な記載を確保するため、ビデオカメラ等による常時鮮明な画像での本人確認、またはICTを活用した方法(顔や旅券画像の確認、事前情報の照合と録画など)を実施すること。
◇ 鍵の適切な受け渡し
スマートロックやキーボックスなど、宿泊者との間で適切に鍵の受け渡しができる設備が整っていること。
◇ 宿泊者以外の出入りの状況の確認
ビデオカメラ等により、宿泊者以外の出入りを常時鮮明な画像で確認できること。
名古屋市の最新条例(令和7年4月1日施行)におけるフロント要件
名古屋市では、令和7年4月1日(2025年4月1日)から旅館業法施行条例が改正され、新たな基準が適用されます。
名古屋市の新しい条例のポイントは、これまで簡易宿所営業には法律上の玄関帳場設置義務がなかったのに対し、「旅館・ホテル営業」と同様の基準を「簡易宿所」にも準用することで、両業種にICT活用を含む玄関帳場要件が適用されるという点です。これにより、名古屋市で簡易宿所を営む場合も、対面またはそれに準ずるICTによる宿泊者の確認や、緊急時の10分駆け付け体制などが求められることになります。
項目 | 旅館・ホテル営業 | 簡易宿所営業 |
玄関帳場/代替設備設置義務 | 国の法令で原則義務あり | 国の法令で義務なし |
ICT代替設備要件 (全国共通指針) | <緊急時対応> ・おおむね10分駆け付け体制 <本人確認> ・鮮明な画像による常時確認またはICT活用(顔・旅券画像、事前情報照合・録画等) <鍵の受渡し> 適切に行える設備 <出入りの確認> 鮮明な画像による常時確認(ICT活用可) | ・国の法令による直接の要件はなし ・ただし、設置する場合は旅館・ホテル営業と同様の指針が参考となる |
名古屋市条例 (R7.4.1施行) | <面接> ・対面または市長が同等効果と認めるICT <常駐> ・原則常駐 ・市長が同等効果と認めるICT(10分駆け付け体制)で代替可 <代替設備要件> ・適切確認設備、外部連絡先表示が必要 | ・旅館・ホテル営業の基準を準用 → つまり、同様の基準が適用される |
ICT機器を活用した無人運営の具体的な要領
無人運営を目指す宿泊施設では、以下のようなICT機器や体制を導入することが一般的です。
◇ セルフチェックインシステム
タブレット端末や自動精算機を導入し、ゲスト自身でチェックイン・チェックアウト手続きを完了できるようにします。宿泊管理システム(PMS)との連携、多言語対応機能も重要です。
◇ スマートロック
対面での鍵の受け渡しを不要にするため、個別のアクセスコードやQRコードで客室に入室できるスマートロックが有効です。これによりセキュリティも強化されます。
◇ ビデオカメラ
宿泊者の顔認証による本人確認や、宿泊者以外の出入りの状況を常時鮮明な画像で確認するために、適切な場所に設置します。
◇ 緊急連絡システム・体制
宿泊施設と管理事務室(またはコールセンター)間で連絡が取れる通話機器(スマホやタブレットのアプリ通話も可)を設置します。また、緊急時に10分程度で駆けつけられるよう、近隣に事務所を設けるか、警備会社など外部業者に委託する体制を整えます。
◇ 情報提供
施設利用方法や緊急時対応、管理事務室の連絡先などを明記したマニュアルや案内を施設内に設置し、デジタル情報(宿泊者専用アプリなど)でも提供します。
まとめ
旅館業におけるフロント要件は、ICTの進展により柔軟な対応が可能になっていますが、地域ごとの条例で詳細な基準が定められているため、事前の確認が不可欠です。名古屋市では令和7年4月1日からの新条例で簡易宿所にも旅館・ホテル営業と同様のフロント要件が適用されるため、新たな開業や既存施設の運営者は注意が必要です。
DX化による無人運営は、人件費削減や業務効率化、ゲストの利便性向上に繋がる一方で、セキュリティ対策や緊急時対応、顧客満足度の維持といった課題への慎重な検討が求められます。開業を検討する際は、管轄の保健所に必ず事前に相談し、地域ごとの詳細な要件を確認するようにしましょう。
ご参考:民泊申請の説明動画
民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。
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