
3階建ての戸建てを民泊として活用することに注目が集まっています。特に2019年の建築基準法改正以降、耐火建築物への改修や建築確認申請が不要となるケースが増え、参入のハードルが下がりました。しかし、民泊には主に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」と「旅館業法」の2つの運営形態があり、それぞれ異なる要件や注意点があります。特に火災時の安全確保のための「竪穴区画(たてあなくかく)」については、どちらの法律を選ぶかで対応が大きく変わるため、しっかりと理解しておくことが重要です。ここでは、民泊新法と旅館業法における3階建て戸建ての運営要件の違いと、竪穴区画が必要になるケースについて説明します。
3階建て戸建て運営の要件比較
3階建ての戸建てを民泊として活用する際には、主に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」と「旅館業法」のどちらの法律に基づいて事業を行うかを選択することになります。それぞれの法律には異なる要件と特徴があり、特に消防安全や建築基準に関する規制が異なります。
項目 | 住宅宿泊事業法(民泊新法) | 旅館業法 |
概要 | ・平成30年6月に施行された新たな制度。 ・届出で事業を開始できる比較的簡易な制度です。 | ・一般的なホテルや旅館と同様の許可。 ・厳格な要件で許可取得のハードルが高いです。 |
営業日数制限 | ・年間180日以内。 ・自治体独自の条例でさらに制限される場合もあります。 | ・制限なし (365日営業可能)。 |
建物の用途 | ・「居宅・共同住宅」として扱われます。 | ・「旅館・ホテル」として扱われます。 |
用途変更の建築確認申請 | ・原則不要。 | ・原則必要。 ・ただし、延べ面積200㎡未満の建物では用途変更時の建築確認申請が不要になりました(2018年法改正)。 |
立地(用途地域) | ・工業専用地域を除くほぼ全ての用途地域で運営可能。 ・ただし、自治体の条例による制限がある場合があります。 | ・制限あり。 ・第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、工業地域、工業専用地域では許可が難しい場合があります。 |
手続きの簡易さ | ・届出制のため、不備がなければ事業を開始でき、行政の審査がなく比較的簡易です。 | ・許可申請が必要で、行政の厳格な審査があります。 ・法的要件や申請手続きも複雑で時間がかかります。 |
設備要件 | ・台所、浴室、便所、洗面の4つの設備が必要です。 | ・客室の広さ、衛生設備、換気・採光、トイレ・洗面設備など厳格な要件があります。 ・採光・換気の基準も満たす必要があります。 |
オーナー不在時の対応 | ・住宅宿泊管理業者への委託が必要となる場合があります。 | ・家主不在時でも火災時の応急対応を担う代理者の設置など。 |
消防設備 | ・消防安全基準に適合した設備の設置が必要です。 ・自動火災報知設備や特定小規模施設用自動火災報知設備、消火器、携帯用照明器具、誘導灯などの設置が求められます。 ・防炎物品の使用も推奨されます。 | ・竪穴区画や消防設備の設置が必要です。 ・自動火災報知設備又は受信機付き特定小規模施設用自動火災報知設備が必要です(住宅用火災報知器は不可)。 ・消火器や誘導灯が既に設置されている場合は新たに設置不要です。 |
重要な安全対策:竪穴区画とは?
「竪穴区画」とは、建物内で火災が発生した際に、煙や炎が階段、吹き抜け、エレベーターシャフト、パイプスペースなどの「竪穴(床に開けられた穴)」を通って上下階に広がるのを防ぐための防火区画です。これにより、火災の延焼を防ぎ、避難時間を確保することを目的としています。
一般の戸建て住宅の場合、階数が3以下で延べ面積が200㎡以内であれば、竪穴区画の設置が免除される緩和規定があります。しかし、民泊として運営する場合、この規定の適用が変わることがあります。
竪穴区画が必要となるケース
住宅宿泊事業法(民泊新法)の場合
◇ 3階を宿泊者が使用する前提で届出をする場合、原則として竪穴区画が必要になります。
◇ ただし、もし3階部分をリネン室や従業員事務室など、宿泊者が使わない形で届出をする場合は、竪穴区画の設置が不要となることがあります。
◇ 建物が耐火建築物である場合も、3階を宿泊に供する要件が緩和される場合があります。
旅館業法の場合
◇ 住宅を用途変更して旅館業を営む場合、原則として竪穴区画が必要となります。これは、これまでの住宅としての緩和規定が適用されなくなるためです。
◇ 耐火建築物でない3階建ての戸建てでも、延べ面積200㎡未満であれば、竪穴区画と自動火災報知設備(自火報)の設置により旅館業として利用可能になりました (令和元年6月以降の建築基準法改正)。
◇ 竪穴区画は、階段や吹き抜けとその他の部分を壁や戸で囲うことで行われます。戸の技術上の基準は厚さ3mm以上の木で良いとされていますが、常時閉鎖しているか、火災時に自動的に閉鎖する機能が求められます。ただし、ふすまや障子などの燃えやすい材質は適しません。自治体によっては、より高い遮煙性能や防火性能のある扉を求める場合もありますので、確認が必要です。
◇ 直通階段の確保も重要です。3階から1階(避難階)までの階段が途切れることなくつながっており、途中でリビングなどの居室を通らない構造が必要です。
◇ もし建物に竪穴区画が設置されていない場合、工事が必要になることが多く、その費用は500万円程度かかる場合もあります。既存の建物の構造によっては、工事が困難なケースもあります。
その他の注意点
消防設備の設置
◇ 民泊新法では消防安全基準に適合した設備の設置が必要とされ、消防庁のガイドラインでは自動火災報知設備(延べ床面積300㎡以下なら特定小規模施設用自動火災報知設備「特小自火報」の設置も可能)、消火器、携帯用照明器具、避難口誘導灯、階段通路誘導灯、防炎物品の使用などが挙げられています。特小自火報は無線式で配線が不要なため、コストを大幅に削減できる可能性があります。
◇ 旅館業法でも竪穴区画と同様に消防設備の設置が求められ、自動火災報知設備や特定小規模施設用自動火災報知設備が必要です(住宅用火災報知器は不可)。
◇ 非常用照明は、旅館業でも民泊新法でも必要とされています。
◇ 火気使用器具への注意喚起や喫煙ルールの徹底、消火器などの設置場所と使用方法の説明、避難方法の周知、避難経路図の掲示なども、民泊サービス提供者向けに推奨されています。
プライバシーのリスク
家主居住型の場合、宿泊客と居住部分のプライバシー保護が特に重要です。鍵付きの扉でエリアを分離したり、宿泊客にルールを明確に伝えたりする対策が必要です。
接道義務
建物の敷地が道路に2m以上接しているか確認が必要です。この基準を満たさない場合、用途変更が認められないことがあります。接道義務を満たしていない物件は、再建築不可物件となってしまいますが、民泊新法には「再建築不可物件は民泊ができない」といった制限などはないので、再建築不可物件であっても、民泊運営の条件を満たせば、民泊として運営可能です。
地域の条例
建築基準法だけでなく、各自治体が定める条例も確認が必須です。地域によって営業日数や時間帯、運営形態に独自の制限が設けられていることがあります。
まとめ
3階建ての戸建てを民泊として活用する際には、主に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」と「旅館業法」のどちらの法律に基づいて事業を行うかを選択することになります。それぞれの法律には異なる要件と特徴があり、特に消防安全や建築基準に関する規制が異なります。
3階建て戸建ての民泊運営は、法改正により参入しやすくなった面もありますが、特に火災安全に関する要件や建築基準法、そして地域の条例への対応が複雑です。これらの法令を十分に理解し、必要に応じて建築士、自治体の建築指導課、建築課といった専門窓口に事前に相談することが、安全かつ円滑な民泊運営の鍵となります。
ご参考:民泊申請の説明動画
民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。
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