近年、旅行者の多様な宿泊ニーズに応える形で、民泊という選択肢が注目を集めています。自宅や所有物件を有効活用し、新たな収入源にすることも可能です。しかし、民泊を始めるには、関連する制度や手続きを理解しておく必要があります。そこで本記事では、民泊申請について、種類、開業までの流れ、運営上の注意点などをわかりやすく解説します。
知っておくべき民泊の種類と法律

日本で民泊を運営するには、主に以下の3つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、自身の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
| 根拠法規 | 営業日数 | 施設要件 | 手続きの難易度 | メリット | デメリット | |
| 旅館業法 | 旅館業法 | 制限なし | 各自治体の条例による | 高 | ・年間営業日数の制限がない | ・施設基準が厳しい |
| 住宅宿泊事業 (民泊新法) | 住宅宿泊事業法 | 年間180日 | 台所、浴室、便所、洗面設備が必要 | 易 | ・比較的簡単に届け出が可能 | ・年間営業日数が180日に制限される |
| 特区民泊 | 国家戦略特別区域法 | 制限なし | 最低宿泊日数 :2泊3日以上 | 中 | ・年間営業日数の制限がなく、施設要件やフロント従業員の要件も比較的緩い | ・地域が限定される ・最低宿泊日数が2泊3日以 |
各種民泊の特徴
◇ 旅館業
ホテルや旅館に近い形態で、年間を通して営業できます。その分、消防設備や建物の構造に関する基準が厳格で、自治体の許可が必要です。
<旅館・ホテル営業>
宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のいずれにも該当しないもの
<簡易宿所営業>
宿泊場所を多数人で共用する構造や設備を主とした施設に、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のうち以下に該当しないもの
◇ 住宅宿泊事業(民泊新法)
自宅や空き家を手軽に活用できるのが特徴です。届出のみで開始できますが、年間営業日数が180日以内という制限があります。
◇ 国家戦略特別区域法(特区民泊)
国が指定した特定の地域でのみ認められている制度です。営業日数の制限はなく、消防設備などの基準も緩和されています。ただし、最低宿泊日数が2泊3日以上などの条件があります。
ご自身の物件の所在地、運営したい期間などを考慮して、どの種類の民泊が最適か検討しましょう。
👉旅館業法、住宅宿泊事業法(民泊新法)、特区民泊(国家戦略特別区域法)の3種類があり、それぞれ営業日数や立地、設備要件などが異なります
住宅宿泊事業(民泊新法)の申請と留意点

開業までの主なステップ
1.事業形態の決定と物件要件確認
◇ 住宅の要件(設備・居住)
台所、浴室、便所、洗面設備の「4点セット」が必須です。また、その住宅が現に居住用である(現に居住、入居者募集が行われている、年1回以上使用する別荘など)必要があります。
◇ 用途地域と条例の確認
工業専用地域以外で営業可能ですが、自治体条例により住居専用地域などで営業期間がさらに制限されている場合があります(例:名古屋市では住居専用地域で平日の営業を制限)。
◇ 共同住宅(マンション)の場合
管理規約で民泊が禁止されていないか、また禁止規定がない場合は管理組合に禁止の意思がないことを1年に1回以上確認し、その証明書類を添付する必要があります。
2.事前相談(保健センター・消防署)
◇ 物件図面を持参し、管轄の保健センターで届出要件を確認します。
◇ 消防署で必要な消防設備(火災報知器、消火器など)を確認し、消防法令適合通知書の交付を受けます。この通知書は届出の添付書類として求められます。
3.周辺住民への事前周知
◇ 事業者の氏名、住宅所在地、緊急連絡先などを記載した書面を、届出前住宅の居住者や隣接地の居住者などに配布し、誠意をもって意見や要望に対応します。
4.届出書の提出・受理
◇ 民泊制度運営システム(オンライン)で、必要書類一式を提出します。届出内容に不備があると受理されないため、正確な記載が必要です。
「家主居住型」と「家主不在型」の違いと管理委託
民泊新法には、家主居住型と家主不在型の2つの運営形態があり、管理業務の義務が異なります。
| 形態 | 定義(不在の基準) | 住宅宿泊管理業者への委託 | 消防設備の基準 |
| 家主居住型 | ・宿泊者が滞在中、事業者が当該住宅に居住し、一時的な不在(原則1時間、最長2時間程度)を除き不在とならない場合。 | ・原則不要 | ・宿泊室の床面積が50㎡以下の場合は、一般住宅と同様に要件が緩和される場合がある。 |
| 家主不在型 | ・上記の条件を満たさない場合(一時的な不在を超える長時間不在となる、または法人の場合)。 | ・必須(管理業務の全てを一の住宅宿泊管理業者に委託) | ・旅館/ホテルと同等の特定防火対象物として厳格な基準が適用される。 |
事業開始後の主な義務
◇ 宿泊者名簿の備付け
氏名、住所、職業、宿泊日を記載し、日本国内に住所を有しない外国人宿泊者に対しては国籍と旅券番号を記載し、旅券の写しを3年間保存しなければなりません。本人確認は対面、またはICTを活用した対面と同等の方法で行う必要があります。
◇ 周辺住民への配慮
周辺住民からの苦情や問い合わせに対し、適切かつ迅速に(管理業者は原則30分以内に現場に赴くなど)対応する義務があります。
◇ 宿泊者への説明
宿泊者(外国人には外国語を用いて)に対し、騒音防止、ごみ処理(民泊ごみは事業系ごみとして処理)、火災防止等に関する事項を書面などで説明する必要があります。
◇ 定期報告
2ヶ月ごとに、宿泊日数や宿泊者数、国籍別の宿泊者数などの実績を都道府県知事等に報告する義務があります。
旅館業法(簡易宿所営業)の申請と留意点

旅館業法に基づく簡易宿所営業は、年間365日営業が可能であり、収益性を重視する場合に適していますが、申請のハードルは高いです。
許可取得の主なハードル
◇ 用途地域の制約
旅館・ホテル用途が立地できる地域(商業系、準工業地域、一部の住居地域など)に限定されます。住居専用地域では原則営業できません。
◇ 用途変更手続き
既存の住宅を旅館業として使用する場合、宿泊に供する部分の床面積が200㎡を超える場合は、建築基準法上の用途を「旅館・ホテル」へ変更する用途変更の申請が必要となります。これには建築士への依頼や費用が必要であり、特に古い建物では検査済証がないために手続きを断念せざるを得ないケースが多いです。
◇ 構造設備の基準
客室の延床面積(宿泊者が10人未満の場合、3.3㎡に宿泊者数を乗じた面積以上)、適当な換気、採光、照明、防湿、排水、入浴設備、洗面設備、便所などの厳しい基準を満たす必要があります。
◇ フロント代替設備の要件
旅館業法における簡易宿所営業で玄関帳場を設けない場合、本人確認、鍵の適切な受け渡し、宿泊者以外の出入り確認、および緊急時対応(通話機器・連絡先明示など)に必要な設備を設ける必要があります。
また、施設の外部の見やすい場所に営業者等の連絡先を掲示することも必要です。自治体によっては、宿泊者の緊急時の求めなどにおおむね10分以内に施設に到着できる「駆けつけ体制」が求められることがあります。
旅館業の運営上の義務と罰則
◇ 宿泊者名簿
民泊新法と同様に、宿泊者名簿の備付けと外国人宿泊者の旅券の写しの保存が必要です。
◇ 衛生管理
寝具は宿泊者ごとに洗濯したものと交換するなど、適切な衛生管理が義務付けられています。
◇ 無許可営業の罰則
旅館業法上の許可を得ずに旅館業を営んだ場合、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金に処される可能性があります。
民泊開業全般における共通の留意点

民泊開業全般における共通の留意点として、法令遵守と近隣住民との調和が特に重要です。
| 留意事項 | 詳細と対策 |
| 用途地域の事前確認 | ・どの法律を選ぶにせよ、都市計画法に基づく用途地域と、自治体の条例による制限(営業期間制限や学校周辺の規制など)を事前に確認する。 |
| 消防法令の遵守 | ・事業開始前に必ず消防署に相談し、必要な消防設備(消火器、非常用照明、避難経路図の掲示など)を設置し、消防法令適合通知書を取得する。 |
| 共同住宅の管理規約 | ・マンションなどの共同住宅で事業を行う場合、管理規約で民泊が禁止されていないかを確認し、必要に応じて管理組合の承諾を得る(民泊新法では禁止する意思がないことの証明が必要)。 |
| 近隣住民とのトラブル対策 | ・騒音やゴミ出し(事業系ごみとしての処理が必要)、火災の防止について宿泊者へ多言語で説明する。 ・苦情対応窓口を設け、適切かつ迅速に対応できる体制を整える。 |
| 住宅ローン利用物件 | ・住宅ローンを利用している場合、民泊利用が契約違反と見なされ、一括返済を求められたり、住宅ローン控除が適用外になったりする可能性があるため、事前に金融機関に確認する。 |
| 費用と代行 | ・消防設備導入費や備品購入費など初期費用がかかる。 |
まとめ
民泊の開業は、適切な準備と理解があれば、自宅や所有物件を有効活用できる魅力的な方法です。本記事を参考に、ご自身の状況に合わせて慎重に計画を進めていきましょう。最も重要なことは、関連法規を遵守し、近隣住民への配慮を忘れず、ゲストに快適な滞在を提供することです。事前にしっかりと情報収集を行い、民泊運営の第一歩を踏み出してみてください。
名古屋市のOSAHIRO行政書士事務所では、名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県を中心に、民泊新法・旅館業法に基づく民泊申請をサポートしています。お客様ごとに異なるご事情やご希望を丁寧にお聞きし、最適な手続きをご提案します。豊富な申請実績を活かし、スムーズな許可取得をお手伝いします。ご依頼・ご相談などお気軽にお問い合わせください(初回面談は無料です)。
ご参考:民泊申請の説明動画
民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。
【民泊情報】
・「民泊」を始めるにあたり、保健所への事前相談は何を行うのか?
【旅館業】





