
3階建ての戸建て住宅を旅館業(民泊を含む)に転用する際には、国民の安全や財産保護を目的とする建築基準法上の様々な規定に留意する必要があります。特に、避難に関する規定は重要です。以下に、主な留意点を示します。
旅館業申請における主な留意点(3階建て戸建て)

留意点 | 概要 | 転用時の注意点 |
直通階段 | 各階から避難階へ直接通じる階段。 | 途中に扉や長い廊下は不可。3階建て住宅でも原則必要。 |
竪穴区画 | 階段等の縦方向の空間を他と区画し、煙・炎の拡散を防ぐ。 | 住宅では緩和されるが、旅館業転用時は原則必要。高額な工事費用を伴う場合あり。 |
階段の寸法 | 階段の幅、蹴上げ、踏面の基準。 | 住宅より旅館・ホテルの方が厳しく、改修が必要な場合がある。 |
2以上の直通階段 | 災害時に複数の避難経路を確保する規定。 | 宿泊室面積が一定規模(100m²または200m²)を超えると必要。 |
その他設備 | 非常用進入口、排煙設備、非常用照明など。 | 3階建てに義務付け。特小自火報などでコスト削減の可能性。 |
建築確認等 | 建築基準法への適合チェックと構造計算書の提出。 | 用途変更面積200m²以下なら建築確認不要に緩和。 |
直通階段
直通階段とは、各階の居室から避難階(通常は1階)へ、途中で迷うことなく直接到達できる階段を指します。避難を妨げるような扉が階段の途中にある場合や、階段と次の階段の間に長い廊下があり、経路が不明瞭な場合は直通階段として認められません。
3階建ての建物は、原則としてこの直通階段の設置が義務付けられています。ただし、戸建て住宅の場合は、利用者が特定されていることから、多少の曲折があっても経路が明確であれば直通階段として許容される場合があります。
竪穴区画

竪穴区画は、階段や吹き抜け、エレベーターシャフトなど、建物内で火災が発生した際に煙や炎が垂直方向に広がるのを防ぐために、これらの空間を壁や扉で区画することです。
一般の3階建て戸建て住宅は、通常この竪穴区画が免除されています。しかし、住宅を旅館業(ホテルや簡易宿所など)に用途変更する際は、この緩和規定が適用されなくなるため、原則として竪穴区画の設置が求められます。区画には、間仕切り壁や3mm以上の木製扉も認められる場合がありますが、設置には200万円から500万円程度の工事費用がかかる可能性があり、事前の確認が重要です。
階段の寸法
建築基準法では、階段の幅、蹴上げ(段差)、踏面(奥行き)について、建物の種類や用途に応じて異なる詳細な基準が定められています。
一般の住宅と比べ、旅館・ホテルなどの不特定多数が利用する施設では、より安全性を高めるために階段の基準が厳しくなります。特に、踊り場に三角形の踏板が連続する「周り階段」や「螺旋階段」は、旅館・ホテルでは避難上問題があるとされ、認められない場合が多いです(東京都では螺旋階段は不可)。
用途変更の際には、既存の階段が旅館・ホテルの新基準に適合しているか確認し、必要に応じて改修工事を行う必要があります。
2以上の直通階段
「2以上の直通階段」とは、災害時に一方の避難経路が使用不能になった場合でも、もう一方の経路で安全に避難できるよう、2つ以上の直通階段を設けることを義務付ける規定です。
3階建ての建物全体または一部を旅館業として使用する場合、宿泊室の合計床面積が100㎡(主要構造部が準耐火構造や不燃材料の場合は200㎡)を超える階では、2つ以上の直通階段の設置が必要になることがあります。
通常の小規模な3階建て戸建て住宅では、この規定は適用されないことが多いですが、ホテル・旅館としての規模が大きくなる場合は、計画段階で必ず確認すべき重要なポイントです。
その他の設備等

3階建ての建物には、以下の設備設置が義務付けられています。
◇ 非常用進入口
火災時に消防隊が進入するためのもので、一般的には道路に面した窓で代替されます。幅75cm以上、高さ120cm以上、または直径1mの円が内接する大きさが条件です。
◇ 排煙設備
火災発生時に煙を外部に排出するための設備で、住宅では窓と兼用される「自然排煙」が一般的です(旅館業における免除規定あり)。
◇ 非常用照明装置
停電時などに避難経路を照らすための照明です。 民泊(住宅宿泊事業)の場合、建物の延べ床面積が300㎡未満、宿泊室の床面積の合計が50㎡以下などの条件を満たせば、通常の自動火災報知器よりも簡易な「特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報)」の設置が認められ、消防設備のコストを大幅に削減できる可能性があります。
建築確認申請・構造計算書
建物の新築や増築、または用途を変更する際には、その建物が建築基準法に適合しているかをチェックする「建築確認」を受け、そのための「建築確認申請」を役所に提出する必要があります。
2019年6月の建築基準法改正により、用途変更部分の床面積が200㎡以下であれば、建築確認申請手続きが不要に緩和されました(以前は100㎡が基準でした)。これは空き家活用を促進するための支援策でもあります。ただし、3階建ての住宅を建てる、または用途変更する場合は、建物の構造上安全であることを示す「構造計算書」の添付が確認申請書類に義務付けられています。
ご参考:民泊申請の説明動画
民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。
名古屋市のOSAHIRO行政書士事務所では、名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県を中心に、民泊申請(民泊新法届出|旅館業許可)をサポートしています。ご依頼・ご相談などお気軽にお問い合わせください(初回面談は無料です)。