
民泊を始めるにあたって、まず最初に確認すべき重要なポイント、それは保健所への事前相談です。なぜなら、民泊にはいくつかの営業形態があり、それぞれ必要な手続きや基準が異なるからです。
営業形態

民泊を運営する方法は主に3種類あり、それぞれ異なる法的根拠、要件、義務があります。その主な違いを以下の表に示します。
住宅宿泊事業(民泊新法) | 旅館業(旅館・ホテル営業) | 旅館業(簡易宿所) | |
根拠法 | 住宅宿泊事業法 | 旅館業法 | 旅館業法 |
許認可 | 届出制 | 許可制 | 許可制 |
営業日数 | 年間180日以内(一部自治体でさらに制限される場合あり) | 制限なし | 制限なし |
用途地域 | ほぼ制限なし(ただし、一部自治体の条例で住居専用地域等に制限あり) | 制限あり(住居専用地域、工業地域、工業専用地域は不可) | 制限あり(住居専用地域、工業地域、工業専用地域は不可) |
建築基準法上の用途 | 住宅、長屋、共同住宅、寄宿舎 | 旅館又はホテル | 旅館又はホテル |
客室の最低数 | 規定なし | 規定なし | 規定なし |
延床面積要件 | 居室は1人あたり3.3㎡以上 | 1客室7㎡以上(寝台がある場合は9㎡以上) | 合計33㎡以上(宿泊者10人未満の場合は3.3㎡×定員数) |
玄関帳場(フロント) | 設置義務なし | 2025年4月より自動チェックイン機等で代替可 | 設置義務なし |
スタッフの常駐 | 必須ではない(家主不在型や5室を超える場合は管理業者への委託義務あり) | 必須ではない(ただし、おおむね10分以内に駆けつけられる体制必須) | 必須ではない(ただし、おおむね10分以内に駆けつけられる体制必須) |
宿泊者の本人確認 | 対面またはICT活用(パスポート写し保存義務) | 対面またはICT活用(パスポート写し保存義務) | 対面またはICT活用(パスポート写し保存義務) |
苦情対応 | 適切かつ迅速に対応 | 努力義務 | 努力義務 |
保健所への事前相談

では、具体的に保健所ではどのような事前相談を行うのでしょうか。
営業形態の確認
まず、どの営業形態で民泊を行うのかを明確にしましょう。住宅宿泊事業なのか、旅館業(簡易宿所営業)なのか、あるいは特区民泊なのかによって、必要な手続きや確認事項が変わります。
施設の構造と設備
◇ 居室の面積
宿泊者一人当たりに必要な居室の床面積が定められています。例えば、住宅宿泊事業では1人あたり3.3平方メートル以上必要です。
◇ 換気、採光、照明
適切な換気設備、採光、照明があるかを確認します。
◇ 入浴設備、洗面設備、便所
宿泊者の需要を満たす規模の入浴設備、洗面設備、便所が設置されているかを確認します。
建築基準法と消防法
◇ 用途地域
民泊を行う場所が、建築基準法で定められた用途地域に合致しているかを確認します。例えば、ホテルや旅館は、第一種住居地域など、限られた用途地域でしか営業できません。
許容される用途地域(主な特徴) | |
住宅宿泊事業(民泊新法) | 「住宅」を利用するため、工業専用地域を除くほぼ全ての用途地域で営業可能です。住居専用地域でも運営できる点が大きな特徴です。 |
旅館業(旅館・ホテル営業) | 住居専用地域、工業地域、工業専用地域では原則営業できません。主に第一種・第二種住居地域、準住居地域、商業系地域などで許可されます。 |
旅館業(簡易宿所) | 旅館・ホテル営業と同様に、住居専用地域、工業地域、工業専用地域では原則営業できません。ただし、自治体によっては条例で緩和措置がある場合もあります。 |
◇ 消防設備
消防法に基づいた非常用照明器具や避難経路の表示などの設置が必要です。また、建物の規模によっては、消火器や自動火災報知機の設置も必要になります。
◇ 消防法令適合通知書
消防法令に適合していることを証明する「消防法令適合通知書」が必要になります。
衛生管理
◇ 清掃、換気
定期的な清掃や換気を行う必要があります。
◇ 寝具
シーツやカバーは宿泊者ごとに交換する必要があります。
◇ 感染症対策
感染症の疑いがある場合は、保健所に通報し、消毒などの措置を講じる必要があります。
地域ごとの条例
◇ 営業日数
条例によっては、住宅宿泊事業の営業日数が180日より短く制限されている場合があります。
◇ 構造設備基準
地域の条例によって、構造や設備に関する基準が異なる場合があります。
◇ 周辺環境
学校や児童福祉施設から一定距離内での営業が制限される場合があります。
マンションの場合
◇ 管理規約
マンションで民泊を行う場合は、管理規約で民泊が禁止されていないかを確認する必要があります。
◇ 居住者との動線
一般居住者と宿泊者の動線が混ざらないように配慮する必要がある場合があります。
その他
◇ 水質検査
水道水以外を使用する場合は、水質検査が必要となる場合があります。
◇ 景観条例
地域によっては、景観に関する条例で規制されている場合があります。
事前相談内容

旅館業の場合、保健所への事前相談では、施設の設計図面などを持参し、建築基準法や消防法といった関連法令への適合状況について詳細な協議を行うことが不可欠です。これは、営業許可を取得する上での非常に重要なステップとなります。一方、住宅宿泊事業では、主にオンラインでの届出となり、事前相談は各自治体が定める独自のルールや近隣住民への事前説明(推奨)事項の確認が中心となります。
まとめ
これらの確認事項を事前に保健所と相談することで、民泊運営をスムーズに進めることができます。特に、旅館業の許可申請は、建築基準法や消防法など複数の法令が絡むため、専門的な知識が必要になる場合があります。そのため、建築指導課、開発審査課、消防局、下水浄化センター、都市計画課など、関連する部署への確認も必要です。
保健所への事前相談では、施設の図面やマンションの管理規約などを持参し、具体的な相談をすることで、よりスムーズな手続きが可能になります。また、営業開始後も、宿泊者名簿の作成、衛生管理の徹底など、守るべき義務があります。
ご参考:民泊申請の説明動画
民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。
【民泊情報】
【旅館業】
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