旅館業営業での消防設備

旅館業営業では、建物の用途が「居宅・共同住宅」から「旅館・ホテル」に変わるため、住宅宿泊事業法(民泊新法)よりも厳格な消防設備基準が適用されます 。特に3階建て戸建ての場合、「特定一階段等防火対象物」として追加の安全基準が求められることがあります。

消防設備

以下に、旅館業営業で必要となる主な消防設備根拠条文を示します。

消防設備概要根拠条文
自動火災報知設備・火災を自動感知し、建物全体に警報する設備です。

・延べ床面積300㎡以上の場合に設置が必要です。

・感知器、受信機、発信機、音響装置などで構成され、原則有線での設置となります。
・消防法施行令第21条
特定小規模施設用自動火災報知設備・延べ床面積300㎡未満の小規模施設で設置可能な簡易な自動火災報知設備です。

・電池式の無線連動型感知器は配線・受信機が不要で、自分で取り付け可能です。
・消防法施行令第21条

・平成二十年総務省令第百五十六号
誘導灯・誘導標識・停電時などにゲストが安全に避難できるよう避難経路や避難口を示す照明設備(誘導灯)や標識(誘導標識)です。

・避難経路が容易に識別できるなど、一定条件を満たせば誘導灯の設置が免除される場合があります。
・消防法施行規則

・消防法施行令第32条
非常用照明器具・火災停電時に避難に必要な最低限の明るさ(床面で1ルクス以上)を確保する照明装置です。

・宿泊施設等の一定の建築物に設置が義務付けられています。

・民泊では、家主が不在とならない、かつ宿泊室の合計床面積が50㎡以下の場合などに免除されることがあります。
・建築基準法施行令第126条の4

・第126条の5

・平成29年国土交通省告示第1109号
竪穴区画・吹き抜けや階段などの竪穴部分を壁や戸で区画し、火災時の煙や炎の垂直方向への拡大を防ぐ措置です。

・3階建て以上の建物で旅館業営業を行う場合や、民泊新法で3階を宿泊者が使用する際に必要とされます。
・建築基準法施行令第112条
防炎物品・カーテンやじゅうたんなど、燃え広がりにくい防炎性能を持つ製品の使用が求められます。・消防法
スプリンクラー設備・火災発生を感知し自動で放水して初期消火を図る設備です。

・建物の階数、用途、延べ床面積(6,000㎡以上など)に応じ、消防法施行令で細かく設置基準が定められています。
・消防法施行令第12条

・建築基準法施行令第112条第4項
消火器・初期消火を目的とした設備です。

・各階の全ての部分から歩行距離20m以内となる位置に設置が望ましいとされ、延べ面積150㎡以上の建物に設置義務があります。
・消防法
避難経路図・火災などの災害発生時に利用者が安全に避難するための道筋を示した図です。

・避難経路を分かりやすく表示し、居室内に掲示することが求められます。
・住宅宿泊事業法第6条
防火管理者選任・消防計画作成・建物全体の収容人員が30人以上の場合に、防火管理者の選任と消防計画の作成・届出が義務付けられています。・消防法

👉建物の用途や規模に応じて、消火器自動火災報知設備誘導灯非常用照明防炎物品の設置が義務付けられています

手続きと注意事項

旅館業営業における消防設備の手続きと注意事項を、新築・既存建物の前提でまとめます。

新築の建物で旅館業を始める場合

手続きの流れ

新築の場合、設計段階から消防法と建築基準法への適合が前提となります。

1.事前相談
設計図面を持って、建設前に管轄の消防署と建築指導課に相談します。

2.建築確認申請
用途を「旅館・ホテル」として建築確認申請を行います。

3.消防用設備等の設置
設計に基づき、自動火災報知設備、誘導灯、消火器、スプリンクラー設備(必要な場合)などを設置します。

4.届出と検査
工事完了後4日以内に消防署へ「設置届」を提出し、検査を受けます。合格すると「消防法令適合通知書」が交付され、旅館業許可申請に進めます。

注意事項

◇ 3階建て以上
3階建て以上の場合は、火災時の煙の拡散を防ぐ「竪穴(たてあな)区画」の設置が必要です。耐火建築物であっても原則として竪穴区画は必須です。

◇ 11階建て以上
建物が11階建て以上の高層建築物の場合、原則として全フロアにスプリンクラーの設置義務が生じます。

既存の建物(戸建て等)で旅館業を始める場合

手続きの流れ

1.事前相談
まず、物件の図面を持って管轄の消防署に相談し、必要な消防設備(自動火災報知設備、誘導灯、消火器等)の指導を受けます。

2.用途変更の確認

◇ 床面積200㎡以下
用途変更に伴う「建築確認申請」は不要です。

◇ 床面積200㎡以上
「建築確認申請」が必要となり、原則として「検査済証」が求められます。

3.専門業者への工事依頼
必要な消防設備の設置を専門業者に依頼します。

4.届出と検査
工事完了後4日以内に消防署へ「設置届」を提出し、検査を受け、「消防法令適合通知書」の交付を受けます。

注意事項

◇ 竪穴区画
既存の3階建て住宅には竪穴区画がない場合が多く、旅館業を営むには新たに設置工事が必要になる可能性が高いです。この工事は高額になる場合があります。

◇ 自動火災報知設備
延べ床面積300㎡未満の施設(原則2階建て以下)では、配線工事が不要でコストを抑えられる「特定小規模施設用自動火災報知設備」を設置できる場合があります。

👉新築の建物の場合、 設計段階から消防署に相談し、用途を「旅館・ホテル」として建築確認申請後、完了時に消防検査を受け「消防法令適合通知書」の交付を受けます

👉既存の建物で旅館業を始める場合、まず消防署へ事前相談し、必要な消防設備(自動火災報知設備等)の指導を受けます

動画でわかる「民泊に必要な消防設備」

名古屋市のOSAHIRO行政書士事務所では、名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県を中心に、民泊申請(民泊新法届出|旅館業許可)をサポートしています。最新の改正旅館業法(令和7年4月)新フロント要件での申請実績も4件あります。ご依頼・ご相談などお気軽にお問い合わせください(初回面談は無料です)。

参考:民泊申請の説明動画

民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。

【旅館業】

・名古屋市旅館業法施行条例等の改正:25年4月

・民泊新法から旅館業への転換

・旅館業における建築基準法

・旅館業における常駐義務

旅館業における無人チェックイン

旅館業における本人確認

【民泊情報】

・民泊新法と旅館業法の違い

・民泊に必要な消防設備

・民泊ができる用途地域とは?

・民泊運営における建築基準法

・民泊の駆けつけ要件

2025年以降も使える!民泊の補助金活用ガイド