特定技能の外国人は転職可能?

人手不足が深刻な日本において、特定技能制度は多くの外国人材を受け入れるための重要な在留資格です。特定技能の外国人労働者の方から「転職したい」という相談を受けたり、企業側で「特定技能外国人は転職できるの?」と疑問に思ったりすることもあるでしょう。

結論から言うと、特定技能の外国人労働者は転職が認められています。しかし、転職にはいくつかの条件や複雑な手続きが伴うため、実際にはハードルが高いのが現状です。以下では、特定技能外国人の転職について、その要件、手続き、注意点について説明します。

特定技能外国人の転職の可否とハードル

特定技能外国人は、原則として転職が可能ですが、その過程にはいくつかのハードルが存在します。主なハードルは以下の点です。

◇ 在留資格変更許可申請が必要
転職先の企業で働くためには、出入国在留管理局で新たな在留資格変更許可申請を行い、許可を得る必要があります。

◇ 申請期間中の収入途絶リスク
前の職場を辞めた場合、在留資格変更許可が下りるまでの間は新しい職場で働くことや、他のアルバイトをすることが認められません。通常、申請には1~3ヶ月程度かかるため、この期間の生活資金を確保しておく必要があります。

◇ 申請不許可時の帰国リスク
万が一、在留資格変更許可申請が不許可となった場合、日本に滞在する資格を失い、帰国しなければならないリスクがあります。

◇ 転職先企業の協力不可欠
新しい受入れ企業は、在留資格申請のために多くの書類を準備し、支援体制を整える必要があり、その協力が不可欠です。

特定技能外国人が転職するための要件

特定技能外国人が転職するためには、外国人本人と受入れ企業側の双方が特定の条件を満たす必要があります。以下の表に要件をまとめます。

外国人材側の要件

要件概要
同一業務区分内の転職・転職先が前職と同じ業種・業務区分の場合、特定技能評価試験の再受験は不要。

・ただし、在留資格変更許可申請は必要。
異なる業務区分への転職・転職先が異なる業種・業務区分の場合、転職先の分野・業務区分に該当する特定技能評価試験に合格が必要。

・技能実習2号修了者は特定の条件で試験免除あり。
日本語能力・特定技能1号には日本語能力試験N4以上(または同等)の要件がある。
在留資格の有効性・現在の在留資格が有効であること。

受入れ企業側の要件

要件概要
産業分野への該当・特定技能が認められている分野に属していること。
法令等の遵守・企業自体が日本の法令を遵守し、欠格事由に該当しないこと。

・保証金徴収や違約金契約は認められない。
雇用条件・日本人と同等水準以上の報酬・待遇であること。

・福利厚生なども差別しない。
支援体制の整備・特定技能外国人に対する支援計画に基づいた各種支援を実施できる体制があること。

・登録支援機関に委託することも可能。

特定技能外国人の転職手続き

特定技能外国人が転職する際には、外国人本人、現在の雇用主(旧受入れ企業)、新しい雇用主(新受入れ企業)それぞれが手続きを行う必要があります。以下に主な手続きをまとめます。

主な手続き提出先期限
外国人本人・所属(契約)機関に関する届出(契約終了または締結)・地方出入国在留管理官署・事由発生から14日以内
在留資格変更許可申請(転職先の企業で働くため)・地方出入国在留管理官署・申請から許可まで数ヶ月
旧受入れ企業・受入れ困難に係る届出 (事由発生の経緯説明書も添付)・地方出入国在留管理官署・事由発生から14日以内
・特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書・地方出入国在留管理官署・契約終了日から14日以内
・支援委託契約の終了又は締結に係る届出書 (支援委託していた場合)・地方出入国在留管理官署・事由発生から14日以内
・外国人雇用状況の届出・ハローワーク・退職日の翌日から10日以内
新受入れ企業・特定技能雇用契約の締結

・支援計画の作成
・在留資格変更許可申請に必要な書類(雇用条件書、支援計画書など)の準備
・在留資格変更許可申請を提出する前までに完了している必要
・在留資格変更許可申請(申請人は外国人本人だが、企業が書類準備協力)・地方出入国在留管理官署申請から許可まで数ヶ月13…
・四半期ごとの定期届出

・契約変更時などの随時届出(在留資格変更許可後)
・地方出入国在留管理官署・定期届出は四半期ごと

・随時届出は事由発生から14日以内
・外国人雇用状況の届出・ハローワーク・雇入れの翌月10日まで

転職時の特例措置:特定活動

特定技能外国人の在留資格変更許可申請は時間がかかり、その間に在留期間が切れてしまうリスクがあります。このような場合、特例として在留期間6ヶ月の「特定活動(就労可)」という在留資格へ変更し、その期間中に特定技能の申請書類を準備・申請することが認められています。

この「特定活動」の許可が得られれば、新しい受入れ予定企業で就労することも可能です。ただし、この特定活動で活動した期間も特定技能1号の在留期間5年に合算されます。

特定技能2号への移行と転職

特定技能2号は、特定技能1号(在留期間上限5年)とは異なり、在留期間に制限がなく、更新すれば継続して日本で働くことが可能です。また、家族(配偶者、子)の帯同も認められています。

特定技能2号になるためには、特定技能1号を取得していることや、各分野で求められるより高度な技能試験に合格することなどが必要です。特定技能2号を取得した外国人材も、転職は可能です。

転職に伴う注意点と企業が取るべき対策

特定技能外国人の転職は、本人にも企業にも様々な注意点があります。

主な注意点

◇ 手続きに時間がかかる(1ヶ月半~3ヶ月程度)。

◇ 申請期間中の収入途絶リスク。

◇ 申請不許可による帰国リスク。

◇ 一部分野では「引き抜き自粛規定」が存在し、転職の流動性を妨げる可能性がある。

◇ 悪質なブローカーが介在し、外国人から不当な手数料を徴収する問題も指摘されている。

企業が取るべき対策

企業が特定技能外国人に長く働いてもらうための対策 企業側にとっては、時間や費用をかけて受け入れた特定技能外国人に長く定着してもらうことが重要です。以下の対策が考えられます。

◇ 適切な待遇と評価
日本人労働者と同等以上の公正な待遇を提供し、働きに応じた昇給・昇格の基準を明確にする。

◇ 働きやすい職場環境の整備
労働条件の整備、仕事の安全確保、適切な休暇制度に加えて、差別的な言動がないよう配慮し、心理的に安心して働ける環境を作る。外国人材の意見を取り入れたり、責任のある仕事を任せたりすることも有効。

◇ キャリアアップのサポート
特定技能2号への移行や資格取得支援など、将来的なキャリアプランを描けるようサポートする。

◇ 教育体制の整備
外国人材の母国語が話せるスタッフを教育係にするなど、業務面・生活面でのサポート体制を整える。

◇ 丁寧な事前ガイダンス・オリエンテーション
雇用条件や業務内容、日本での生活ルールなどを入社前にしっかりと伝え、ミスマッチを防ぐ。

◇ 登録支援機関の活用
自社での支援が難しい場合、登録支援機関に支援業務を委託することで、外国人材が安心して働ける環境を整備する。

まとめ

特定技能の外国人労働者は、人権保護や労働者としての権利向上の観点から転職が認められています。しかし、在留資格変更許可申請をはじめとする複雑な手続きや、申請期間中の無収入リスクなど、転職には高いハードルが存在します。特定技能制度の目的には、地方や中小零細企業での人材確保も含まれており、自由に転職が進むと都市部への人材流出が懸念されるため、転職に条件が設けられている側面もあります。

企業側も、外国人本人も、特定技能の転職には多くの手続きとリスクが伴うことを理解し、適切に対応することが重要です。外国人材に長く活躍してもらうためには、単に手続きを行うだけでなく、公正な待遇や働きやすい環境整備、キャリア支援など、外国人材の定着に向けた積極的な取り組みが不可欠と言えるでしょう。

参考:特定技能ビザ説明動画

ビザ申請の概要や注意点を動画でわかりやすくご紹介します。

・特定技能制度|2025年4月からの変更点

・特定技能外国人の職種変更における主な注意点

・特定技能外国人の受け入れにおける登録支援機関の役割と責任

・特定技能所属機関による協力確認書の提出とは?

・特定技能1号から2号になるには?

・特定技能「工業製品製造業」分野とは?

・製造業特定技能協議会への入会は受入れ機関に必須か?

名古屋市のOSAHIRO行政書士事務所は外国人のビザ申請をサポートしています。ご依頼・ご相談などお気軽にお問い合わせください(初回面談は無料です)。