改正旅館業法の無人フロント要件|各自治体の独自条例

2025年4月1日より、旅館業におけるフロント要件が改正されました。この改正は、情報通信技術(ICT)の進展と利用者ニーズの多様化、そして宿泊業界の人手不足に対応することを目的としています。

旅館業法における無人フロント要件の改正概要

従来の旅館業法では、旅館・ホテル営業において「玄関帳場」(一般的にフロントと呼ばれる設備)の設置が義務付けられていましたが、2018年の旅館業法改正により、その設置義務が撤廃され、ICTを活用した代替手段が認められるようになりました。改正後の旅館業法(旅館業法施行令および旅館業法施行規則)では、玄関帳場に代わる設備として、以下の2つの機能が求められます。

◇ 「緊急時における迅速な対応を可能とする設備」

◇ 「宿泊者名簿の正確な記載」、「鍵の適切な受渡し」、「および宿泊者以外の出入りの状況確認」を可能とする設備

厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」はこれらの要件を満たすための具体的な指針を示しています。この要領では、緊急時の対応として「おおむね10分程度で職員等が駆けつけられる体制」が望ましいとされています。

旅館の無人化は、人件費削減、業務効率化、ヒューマンエラーの減少、感染症対策といったメリットを施設側にもたらし、ゲストにとってはチェックイン・アウトの手間削減や非対面での滞在が可能になるというメリットがあります。

👉旅館業法は2025年4月1日に改正され、ICTによる本人確認10分駆け付け体制を整備すれば、無人フロント運営が認められるようになりました

各自治体の独自条例について

国レベルで規制が緩和された一方で、各地方自治体は独自の条例(「上乗せ条例」と呼ばれます)を定めている場合があり、国法よりも厳しい基準を設けることがあります。以下に例をしめします。

自治体ICT代替設備への主な規制
名古屋市・2025年4月1日施行の改正条例により、原則常駐を義務付け。ICTによる代替を認める場合でも、10分駆け付け体制の整備が必須です。

・また、新規営業前に周辺住民への営業計画の公表が義務化されています。
東京都 北区・旅館・ホテル営業では、ICT活用を含む玄関帳場の代替設備を認めていません。このため、事実上、スタッフの常駐が必要となります。
東京都(千代田区・練馬区など)・複数の区が旅館・ホテル営業に対し、スタッフの常駐義務対面での鍵渡しを強く求めており、完全な無人化は困難です。
京都市・旅館・ホテル営業では一定の要件のもとでICT代替設備を認めています
川崎市・ICT活用による代替設備を認め、国の要件である本人確認や10分駆け付け体制の整備を厳格に遵守することを求めています。

国がICT利用を推進する一方で、特に大都市圏では、地方自治体が常駐義務を維持するか、あるいは国の基準である「10分駆け付け義務」を厳格に適用することで、事実上の無人運営のハードルを高めている状況です。

ICT設備(ビデオカメラ等)による鮮明な画像での本人確認や、自動チェックイン機器による情報照合が代替設備の核となりますが、自治体の条例は、このICT設備に加えて、人間による物理的な対応能力を強く要求しています。

👉名古屋市等、各自治体の条例で新規施設に計画公開義務、既存施設は変更届が必要な場合もあります

改正後の無人フロントにおける運営要領例

改正旅館業法における無人フロント運営の主要な要件と、それらを満たすための具体的な運営要領例を以下に示します。

要件/機能運営要領例主な参照自治体例
本人確認◇ ビデオカメラ等による鮮明な画像確認
宿泊者の顔と旅券が鮮明に確認できるビデオカメラを設置し、常時録画する。顔認証システム等のICT設備を導入する。

◇ 自動チェックイン機器による情報照合
事前共有情報(二次元コードや暗証番号など)と本人確認情報(氏名、住所、連絡先など)を自動チェックイン機器で照合する。

◇ 外国人宿泊者の旅券確認
日本国内に住所を有しない外国人宿泊者に対しては、旅券の提示を求め、その写し(電子的な保存を含む)を宿泊者名簿とともに保存する。
<名古屋市>
ICTを活用した面接と同等の効果が認められる。

<川崎市>
対面面接またはICT(顔の鮮明な画像と公的顔写真付き本人確認書類の鮮明な画像)。
鍵の受渡し◇ ICT設備による交付
スマートロックやキーボックスなど、ICT機器を用いて、本人確認が完了した宿泊者に対して客室の鍵情報(暗証番号など)を発行・受渡しを行う。物理的な鍵の紛失や盗難のリスクを軽減できる。

◇ システム連携
セルフチェックインシステムとスマートロックを連携させ、宿泊期間のみ有効なPINコードを自動発行する。
<名古屋市>
ICTを活用した鍵の受渡しが認められている。

<川崎市>
宿泊者名簿に記載した宿泊者との間で適切に行う。
出入りの状況確認◇ 防犯カメラの設置
宿泊施設内(特に宿泊者専用区域やエントランスなど)に、顔が判別できる角度で鮮明な画像を常時録画するビデオカメラ等を設置し、宿泊者以外の不審な出入りを監視する。

◇ オートロックシステム
不正侵入を防ぐため、エントランスや宿泊者専用区域をオートロックにする。
<名古屋市>
宿泊者以外の出入りの確認が必要。

<川崎市>
宿泊者以外の出入り状況を常時鮮明な画像により実施する。
緊急時の駆け付け◇ 10分以内駆け付け体制
事故発生時や緊急時(急病、設備の故障、不審者の侵入など)に、施設に常駐していなくても、おおむね10分程度で職員や警備会社などの代理人が現場に駆け付けられる体制を整備する。

◇ 外部委託
警備会社などと提携し、緊急時の駆け付け対応を委託する。

◇ 通話機器の設置
宿泊者からの緊急連絡を受けられるよう、施設と管理事務所(またはコールセンター)との間に通話機器を設置する。
<名古屋市>
常時宿泊者からの連絡を受け、求めに応じておおむね10分以内に施設に到着できる体制。

<川崎市>
宿泊者等の生命・身体に危害が及ぶ非常の場合を除き、求めに応じて通常10分程度で職員等が駆け付けられる体制。

👉改正旅館業法後の無人フロント運営では、ICTで本人確認や鍵交付を行い、防犯カメラで出入りを監視します。また、緊急時には10分以内に職員が駆け付けられる体制整備が必須

まとめ

改正旅館業法により、旅館・ホテル営業の「玄関帳場」(フロント)設置義務は撤廃され、ICT機器(ビデオカメラや自動チェックイン機)を用いた代替設備が認められました。しかし、各地方自治体は「上乗せ条例」で国法より厳しい独自の基準を設けています。代替設備が認められる場合でも、緊急時に「おおむね10分以内に職員等が駆け付けられる体制」の整備が全国共通の指針として求められます。

◇ 東京都北区
旅館・ホテル営業における玄関帳場代替設備を認めていません。

◇ 名古屋市
ICT活用を認めつつ、新規施設に対し周辺住民への営業計画の事前公表を義務付けました。

◇ 川崎市
旅館・ホテル営業において、ICTによる本人確認や10分駆け付け体制が可能な代替設備を求めています。

このため、事業者は物件所在地の保健所にて最新の条例や運用要件を事前に確認することが不可欠です

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参考:民泊申請の説明動画

民泊申請の概要、注意点について、動画でわかりやすくご紹介します。

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