
特定技能制度は、人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れる在留資格です。中でも「製造業」分野は、多くの外国人労働者が従事しており、今後も受け入れが見込まれる分野として注目されています。
特定技能「製造業」の概要
3分野統合の経緯
以前、特定技能の製造業分野は「素形材産業分野」「産業機械製造業分野」「電気・電子情報関連産業分野」の3つに分かれていました。しかし、2022年4月からは、これらの3分野が統合され、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」となりました。今後は分野名を「工業製品製造業分野」へ変更し、新たな業種・業務区分を追加しています。
対象業種

特定技能「製造業」は「工業製品製造業分野」と呼ばれ、対象となる産業の範囲は、日本標準産業分類(JSIC)に掲げられる広範な49分類に及びます。
この49分類は、外国人が実際に従事する10の業務区分に対応しています。以下に、主要な産業グループと、それに含まれる業務の簡単な説明をまとめます。
産業分類(JSIC主要グループ) | 業務の説明 |
機械金属系 | ・素形材や産業機械の加工・組立 ・保全作業 |
電気電子系 | ・電気電子機器の製造/組立/検査等 |
金属表面処理系 | ・めっき ・アルミニウム陽極酸化処理等 |
紙・印刷・製本 | ・紙器/段ボール製造 ・オフセット印刷 ・製本作業 |
繊維・縫製 | ・紡織製品の製造 ・衣類や布製品の縫製 |
建材・その他 | ・コンクリート製品 ・陶磁器製品 ・RPF(固形燃料)製造 |
👉特定技能「製造業」は工業製品製造業分野と呼ばれ、旧3分野統合を経て、金属、機械、電子、繊維、印刷など49の広範な産業分類を対象としています
業務区分

特定技能制度における「工業製品製造業分野」では、外国人材が従事できる業務が以下の10区分に分けられています。これらの業務区分は、日本の「人手不足」に対応するため、一定の専門性や技能を持つ外国人を受け入れる目的で設定されています。
業務区分 | 含まれる主な技能 |
機械金属加工 | ・鋳造、機械加工、溶接、金属プレス加工、工場板金、塗装、機械保全など、金属や機械部品の製造・加工・組立に関する幅広い作業が含まれます。 ・2024年3月に追加された強化プラスチック成形や金属熱処理も含まれます。 |
電気電子機器組立て | ・電子機器や電気機器の組立て、機械加工、プラスチック成形、機械保全など、電気・電子部品や機器の製造・組立に関する作業が含まれます。 ・強化プラスチック成形も含まれます。 |
金属表面処理 | ・めっき、アルミニウム陽極酸化処理など、金属製品の表面を加工・保護する作業。 |
紙器・段ボール箱製造 | ・紙製の箱や段ボール箱の製造全般。 |
コンクリート製品製造 | ・コンクリート製品の製造全般。 |
RPF製造 | ・RPF(廃棄物固形燃料)の製造全般。 |
陶磁器製品製造 | ・食卓用・ちゅう房用陶磁器、陶磁器製置物など、陶磁器製品の製造全般。 |
印刷・製本 | ・印刷および製本に関する作業。 |
紡織製品製造 | ・紡績、織布、染色、ニット製品、カーペットなど、繊維製品の製造全般。 |
縫製 | ・婦人・子供服、紳士服、下着類、寝具、帆布製品、座席シートなどの縫製作業。 |
これらの業務区分は、2022年5月の分野統合と2024年3月29日の閣議決定による新たな業種・業務区分の追加を経て、「工業製品製造業分野」として再編されました。特定の業務区分で従事するためには、該当する技能評価試験に合格するか、対応する技能実習2号を良好に修了している必要があります。
👉機械金属加工、電気電子機器組立て、金属表面処理の既存3区分に、紙器・段ボール箱製造、コンクリート製品製造、RPF製造、陶磁器製品製造、印刷・製本、紡織製品製造、縫製の7区分が追加され、計10区分です
事業所の要件

特定技能「製造業」(工業製品製造業分野)において、特定技能外国人を受け入れる事業所(特定技能所属機関)には、主に以下の要件が課されます。
項目 | 要件 |
産業・事業実態 | ・日本標準産業分類に掲げる産業(現在49分類が対象)に該当し、直近1年間で製造品出荷額等(自社所有原材料による製造実績)が発生していること。 |
協議会への加入 | ・在留資格申請前に製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会へ事業所ごとに構成員として入会が必須。 |
雇用形態 | ・外国人を直接雇用すること(労働者派遣は認められない)。 |
法令遵守・支援 | ・労働・社会保険・租税関係法令を遵守し、特定技能1号では支援計画を策定・実施する義務がある。 |
特定分野の追加措置 | ・繊維工業、印刷、こん包業などの特定産業では、月給制の導入や勤怠管理の電子化など、協議会で定めた追加措置を講じること。 |
👉特定技能「製造業」の受入れ事業所は、日本標準産業分類の対象業種に該当し、直近1年間で製造品出荷額等が発生しており、かつJAIMへの入会が必須です
在留資格取得要件
技能水準
特定技能「製造業」の技能水準評価試験は、特定技能1号と2号で求められる水準が異なります。
特定技能1号評価試験
1号は相当程度の知識や経験(技能検定3級程度)を測るため、「製造分野特定技能1号評価試験」の合格が必要です。
項目 | 概要 |
技能水準 | ・相当程度の知識や経験を必要とします(技能検定3級程度が基準)。 |
対象 | ・全10区分(機械金属加工、金属表面処理、電気電子機器組立て、紙器・段ボール箱製造など)があります。 |
試験・免除 | ・製造分野特定技能1号評価試験(学科65%以上、実技60%以上)と日本語試験(N4以上など)の合格が必要です。 ・ただし、技能実習2号を良好に修了した場合は試験が免除されます。・ |
実施方法 | ・CBT(コンピューター・ベースド・テスティング)方式で行われます。 |
特定技能2号評価試験
2号は熟練した技能(技能検定1級程度)を測り、合格には「製造分野特定技能2号評価試験とビジネス・キャリア検定3級」、または「技能検定1級」の取得に加え、3年以上の実務経験が必須です。
項目 | 概要 |
技能水準 | ・熟練した技能(技能検定1級程度が基準)を証明します。 |
対象 | ・3区分(機械金属加工、電気電子機器組立て、金属表面処理)です。 |
試験ルート | ・「特定技能2号評価試験」と「ビジネス・キャリア検定3級」の両方、または「技能検定1級」に合格する必要があります。 |
実務経験 | ・上記の試験に加え、日本国内の製造業の現場における3年以上の実務経験が必須要件です。 |
日本語能力水準
以下のいずれかの試験で基準を満たす必要があります。
◇ 国際交流基金日本語基礎テスト
◇ 日本語能力試験(N4以上)
ただし、技能実習2号を良好に修了した場合は、技能試験・日本語試験が免除されます。
👉特定技能1号の在留資格は、業務に必要な技能試験と日本語試験(N4以上)に合格することです(技能実習2号良好修了者は免除)
JAIMへの入会義務化
一般社団法人工業製品製造技能人材機構(JAIM)への入会義務化に関する経緯と対応すべき内容は以下の通りです。
経緯 製造分野の特定技能外国人材の受入れ見込数が約5万人から約17万人へ大幅に増加したため、技能試験運営や受入れ管理等の業務を新団体(JAIM)へ移管することになりました。この新団体登録制度は、2025年5月の経済産業省告示の改正により導入され、JAIMは6月25日に経済産業大臣の登録を受けました。対応すべき内容(2025年7月以降必須)は以下です。
◇ 入会義務
特定技能外国人を受け入れる全ての事業所は、JAIM賛助会員への入会が必須です。入会手続きは2025年7月1日より開始されています。
◇ 移行手続き
既存の「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」の会員は、JAIMへの情報移行手続きが必要です。
◇ 新たな要件
受入れ機関の要件として、生産性向上や国内人材確保のため、賃上げ等の取組実施が追加されました。
◇ 期限
入会手続きが完了しない場合、令和7年12月下旬以降、在留資格の更新や新たな受入れができなくなります。
👉特定技能「製造業」の受入れ事業所は、2025年5月の経済産業省告示改正により、一般社団法人工業製品製造技能人材機構(JAIM)への入会が必須となりました
申請の流れ

製造業分野で特定技能外国人を受け入れる際の主な申請フローは以下の通りです。
ステップ | 説明 |
1. JAIMへの入会 | 一般社団法人工業製品製造技能人材機構(JAIM)への入会が、2025年7月以降必須となっています。 |
2. 外国人候補の探索 | 協議会入会後、受け入れる特定技能外国人材を探します。 |
3. 支援計画の策定 | 外国人の日本での生活・就労を支援するための計画(事前ガイダンス、送迎、住居確保支援等10項目)を雇用前に作成します。 |
4. 在留資格認定・変更申請 | 地方出入国在留管理局へ、雇用契約書や支援計画等の必要書類を添えて申請します。 ◇ 海外から来日する場合:在留資格認定証明書交付申請 ◇ 日本国内に在留している場合:在留資格変更許可申請 |
5. 審査・在留カード交付 | 申請が審査され、許可されれば特定技能外国人に在留カードが交付されます。 |
6. 支援の実施 | 入国後または在留資格変更後、支援計画に基づき、生活オリエンテーションなど各種支援を遅滞なく実施します。 |
👉受入れ機関は、JAIM入会と雇用契約締結・支援計画策定を経て、地方入管局へ在留資格関連の申請を行います
注意点
特定技能「製造業」(工業製品製造業分野)を受け入れる際の主な注意点について、項目別にまとめます。
項目 | 主な注意点 |
雇用形態の制限 | ・原則として直接雇用が必須であり、特定技能外国人を労働者派遣の対象とすることは認められません。 ・違反した場合、以後5年間は受入れができなくなる可能性があります。 |
協議会への加入 | ・在留資格申請前に製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会(または新団体)へ事業所ごとに入会が必須です。 ・入会完了まで通常2か月程度かかるため、余裕をもった手続きが必要です。 |
事業所の要件 | ・受入れ事業所は、日本標準産業分類の対象業種に該当し、直近1年間で製造品出荷額等が発生している実績が求められます。 |
支援義務と届出 | ・1号特定技能外国人に対し、職業・日常生活・社会生活上の支援(10項目)を支援計画に基づき実施する義務があり(委託可)、また、各種届出を定期・随時で行う必要があります。 ・届出の不履行や虚偽は罰則の対象です。 |
特定分野の追加要件 | ・繊維工業、印刷・同関連業、こん包業の事業所は、月給制の導入や勤怠管理の電子化、業界団体への所属など、協議会が定めた上乗せ基準の遵守が求められます。 |
👉特定技能の受入れ事業所は、JAIMへの入会が必須であり、生産性向上や賃上げの実施など新たな要件を満たす必要があります
まとめ
特定技能「製造業」は、人手不足に悩む製造業にとって、即戦力となる外国人材を確保できる有効な手段です。制度を理解し、必要な要件を満たすことで、外国人材の受け入れをスムーズに進めることができます。
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ご参考:特定技能ビザの説明動画
ビザ申請の概要や注意点を動画でわかりやすくご紹介します。