賃貸物件で民泊は始められる?

近年、旅行者の間で人気が高まっている民泊。所有している物件はもちろん、賃貸物件を活用して民泊を始めたいと考える方もいるかもしれません。しかし、「借りている部屋で勝手に民泊を始めても良いの?」と疑問に思う方も多いはず。そこで今回は、賃貸物件で民泊を始める際の条件、注意点について説明します。

賃貸契約を結んでいる物件で、大家さん(オーナー)や管理会社の許可を得ずに民泊を行うことは、原則として認められていません。これは、賃貸借契約に違反する行為であり、最悪の場合、契約解除や損害賠償請求につながる可能性があります。

賃貸物件は、通常「住居用」として契約されています。民泊は「宿泊業」にあたるため、用途が異なることになります。また、不特定多数の人が出入りすることで、騒音やゴミ出しの問題など、近隣住民とのトラブルを引き起こす可能性も高まります

賃貸物件で民泊を始めるための条件

では、賃貸物件で民泊を始めることは絶対に不可能なのでしょうか?条件によっては、許可を得て民泊運営ができる可能性もゼロではありません。主な条件は以下の通りです。

◇ 大家さん(オーナー)の明確な許可
まず最も重要なのが、物件の所有者である大家さんに、民泊としての利用を明確に許可してもらうことです。口頭だけでなく、書面で許可を得ておくことがトラブルを避けるために重要です。

◇ 分譲マンションの場合は管理組合の許可
賃貸物件が分譲マンションの一室である場合、大家さんの許可に加えて、マンションの管理規約で民泊が禁止されていないかを確認する必要があります。管理規約で民泊が禁止されている場合は、大家さんの許可を得ても民泊運営はできません。管理組合に事前に確認し、場合によっては許可を得るための手続きが必要になります。

◇ 住宅宿泊事業法または旅館業法に基づく許可・届出
民泊を事業として行うには、住宅宿泊事業法に基づく届出を行うか、旅館業法に基づく許可を得る必要があります。

〈住宅宿泊事業法〉
年間の営業日数が180日以内などの制限がありますが、比較的簡易な手続きで届出が可能です。ただし、家主不在型の場合は住宅宿泊管理業者との契約が義務付けられています。

〈旅館業法〉
営業日数の制限はありませんが、施設の設備基準や消防設備などが厳格に定められており、許可を得るためのハードルは高くなります。

◇ 消防法・建築基準法などの関連法規の遵守
民泊施設として適切な消防設備(非常用照明器具、火災報知機など)を設置し、建築基準法などの関連法規を遵守する必要があります。事前に所轄の消防署や保健所へ相談し、必要な設備や手続きを確認しましょう。

◇ 近隣住民への配慮
民泊運営を行うにあたっては、騒音対策やゴミの処理方法などについて、近隣住民への十分な配慮が求められます。事前に周知したり、ルールを明確に伝えたりするなどの対策が必要です。

賃貸物件で民泊を始める際の注意点

たとえ大家さんや管理組合の許可を得られたとしても、賃貸物件で民泊を始める際には、多くの注意すべき点があります。

◇ 用途変更のリスク
賃貸物件はあくまで「住居用」としての契約です。民泊としての利用が許可されたとしても、将来的に大家さんの都合で住居としての利用に戻すよう求められる可能性があります。

◇ 管理業務の負担増
民泊は、通常の賃貸に比べて清掃、リネン交換、鍵の受け渡し、宿泊者からの問い合わせ対応など、管理業務の負担が大幅に増えます。これらの業務を自身で行うのか、代行業者に委託するのかを検討する必要があります。

◇ 初期費用と運営費用
民泊を始めるには、家具や家電の購入、リネン類の準備、消防設備の設置(必要な場合)など、初期費用がかかります。また、運営していく上でも、水道光熱費、消耗品費、清掃費、民泊サイトへの掲載手数料、保険料などの費用が発生します。これらの費用を事前にしっかりと把握し、収益性を検討する必要があります。

◇ 近隣トラブルへの対応
宿泊者のマナーによっては、騒音、ゴミ出し、共用部分の利用方法などで近隣住民とのトラブルが発生する可能性があります。トラブル発生時の対応策を事前に考えておく必要があります。

◇ 宿泊者とのトラブル
チェックイン・チェックアウトの遅延、施設の破損、貴重品の紛失、騒音など、宿泊者との間で様々なトラブルが発生する可能性があります。トラブル発生時の対応について、事前にルールを決めておくことが重要です。

◇ 損害賠償責任
宿泊者や近隣住民に損害を与えてしまった場合、損害賠償責任を負う可能性があります。9民泊向けの保険に加入するなど、リスクに備えておくことが大切です。

◇ 契約内容の再確認・変更
大家さんの許可を得る際には、賃貸借契約の内容を民泊利用に対応したものに見直す必要があります。例えば、賃料の値上げや、民泊に関する特約条項(禁止事項や損害賠償についてなど)が追加される可能性があります。

根拠法令

賃貸物件での民泊に関連する主な法律は以下の通りです。

◇ 民法
賃貸借契約に関する基本的なルールを定めており、無断転貸の禁止(第612条)や用法遵守義務(第594条)などが、賃貸物件での無断民泊がNGとされる根拠となります。

◇ 住宅宿泊事業法
一定の要件を満たす住宅を宿泊施設として提供する事業について定めています。届出を行うことで、旅館業法の許可なしに民泊を運営することが可能になります。

◇ 旅館業法
宿泊施設を経営するための許可要件などを定めています。住宅宿泊事業法によらない本格的な民泊運営を行う場合は、旅館業法の許可が必要です。

◇ 建築基準法・消防法
建物や消防設備の安全に関する基準を定めており、民泊施設もこれらの基準を遵守する必要があります。

◇ 各自治体の条例
自治体によっては、民泊に関する独自の条例を定めている場合があります。営業可能な地域や日数、近隣住民への配慮事項などが定められていることがあるため、事前に確認が必要です。

まとめ

概要根拠法令等
許可原則として、賃貸物件での無断民泊は契約違反。必ず大家(オーナー)の許可が必要。

・分譲マンションの場合は、管理組合の規約で民泊が禁止されていないか確認する必要がある。
・民法第612条(無断転貸の禁止)

・賃貸借契約
法令遵守・民泊を事業として行う場合、住宅宿泊事業法に基づく届出、または旅館業法に基づく許可が必要。

・それぞれに要件(年間営業日数、消防設備など)が異なる。

・無許可・無届出営業は罰則の対象。43
・住宅宿泊事業法

・旅館業法
用途・賃貸借契約では物件の用途(通常は住居用)が定められている。民泊は宿泊用途となるため、用途違反となる可能性。

・事前に大家に民泊としての利用目的を伝え、契約内容に明記してもらう必要がある。
・賃貸借契約

・民法第594条(用法遵守義務)
近隣住民への配慮・短期間に不特定多数の人が出入りすることで、騒音、ゴミ出し、マナー違反など、近隣住民とのトラブルが発生しやすい。

・事前に宿泊者へルールを周知徹底し、苦情には誠意をもって対応する必要がある。
・住宅宿泊事業法(周辺住民への配慮義務)

・各自治体の条例
安全対策非常用照明器具の設置など、火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全確保のための措置を講じる必要がある。

・消防法に基づく設備の設置が必要となる場合があるため、事前に消防署への相談が推奨される。

・家主不在型の場合は、住宅宿泊管理業者との契約が義務付けられている。
・住宅宿泊事業法

・消防法

・住宅宿泊事業法施行規則

・国土交通省告示第1109号
管理/運営・清掃、リネン交換、宿泊者名簿の作成・保管、鍵の受け渡し、問い合わせ対応など、賃貸に比べて管理業務が煩雑になる。

・外国人宿泊者への対応(多言語対応など)も必要となる。

・民泊運営代行サービスの利用も検討できる。
・住宅宿泊事業法

・住宅宿泊事業法施行規則
費用・物件取得費(敷金・礼金等)、家具・家電の購入費、消防設備設置費、清掃費、水道光熱費、民泊サイト掲載手数料、保険料など、初期費用と運営費用が発生する。

・賃貸契約の内容によっては、民泊を許可する代わりに賃料の値上げを求められる可能性もある。
・賃貸借契約
その他住宅宿泊事業の欠格事由に該当しないこと。

・定期的な宿泊実績の報告義務。

・届出事項に変更があった場合の届出義務。

・管理組合への年1回以上の確認(区分所有建物の場合)。

・周辺住民への事前周知が推奨される。
・住宅宿泊事業法

・名古屋市旅館等指導要綱

賃貸物件で民泊を始めるには、大家さんや管理組合の許可を得ることはもちろん、関連法規を遵守し、近隣住民への配慮を徹底することが不可欠です。安易な気持ちで無断に民泊を始めると、大きなトラブルに発展する可能性があります。もしあなたが賃貸物件での民泊運営を検討しているのであれば、まずは大家さんや管理会社に相談し、関係各所に確認を行った上で、慎重に判断するようにしましょう。

名古屋の「OSAHIRO行政書士事務所」では、民泊新法(住宅宿泊事業法)に基づいた届出をはじめ、様々なご相談をお受けいたします。ご不明なことがありましたら、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください(初回面談は無料です)。