遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように承継するかなど、亡くなった後の希望を残すための重要な書類です。遺言書を作成しておくことで、遺産の分け方をあらかじめ指定でき、相続人間のトラブルを防ぐことにもつながります。ただし、遺言書は自由に書けばよいわけではなく、法律で定められた方式を守って作成する必要があります。
ここでは、遺言書の種類や自筆証書遺言の書き方、作成する際の注意点などについて、解説します。
遺言書の種類
一般的に用いられる遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。
自筆証書遺言
遺言者本人が、原則として遺言書の全文、日付、氏名を自筆で書き、押印して作成する遺言書です。
自分で作成できるため、比較的手軽で費用を抑えられることがメリットです。
一方、法律で定められた方式を満たしていない場合には遺言が無効となる可能性があります。また、自宅などで保管する場合には、紛失したり、相続人に発見されなかったりする可能性もあります。
なお、現在は法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうこともできます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者の意思に基づき、公証人が作成する遺言書です。原則として証人2人の立会いが必要となり、自筆証書遺言と比較すると費用や準備が必要になります。
一方、公証人が関与して作成し、原本が公証役場で保管されるため、方式不備や紛失・改ざんなどのリスクを抑えることができます。
財産が多い場合や、相続人間のトラブルをできるだけ避けたい場合などには、公正証書遺言を検討する方法もあります。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言を作成する場合には、民法で定められた方式を守る必要があります。
◇ 全文、日付、氏名を自筆で書く
原則として、遺言書の全文、作成日付、氏名を遺言者本人が自筆で書きます。ただし、財産目録については例外があり、パソコンで作成したものや、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなどを利用することもできます。
自筆でない財産目録を添付する場合は、そのすべてのページに遺言者が署名・押印する必要があります。
◇ 日付を正確に書く
「令和8年9月26日」のように、作成した年月日を特定できるように記載します。
「令和8年9月吉日」のように、具体的な日付を特定できない記載は避ける必要があります。
◇ 氏名を自筆で書く
遺言者本人が氏名を自筆で記載します。
誰が作成した遺言書なのか明確になるよう、住民票などの記載に合わせて正確に記載しておくとよいでしょう。
◇ 印鑑を押す
自筆証書遺言には押印が必要です。
実印でなければならないという決まりはなく、認印でも作成できます。ただし、遺言者本人が作成したことをめぐるトラブルをできるだけ避けるという観点から、使用する印鑑についても検討しておくとよいでしょう。
◇ 訂正方法にも注意する
遺言書を書き間違えた場合には、自由に書き直したり修正液を使用したりするのではなく、法律で定められた方法で訂正する必要があります。変更する場所を示したうえで、変更した旨を付記して署名し、変更した箇所に押印します。
訂正方法を間違えると問題になる可能性があるため、訂正箇所が多い場合には、新しく書き直すことも検討するとよいでしょう。
遺言書の内容
遺言によって定めることのできる主な内容には、次のようなものがあります。
◇ 相続分の指定
法定相続分とは異なる割合で、相続人の相続分を指定することができます。
◇ 遺産分割方法の指定
「自宅の土地・建物は妻に相続させる」など、どの財産を誰に承継させるかを指定することができます。
◇ 遺言執行者の指定
遺言の内容を実現するための手続きを行う「遺言執行者」を遺言で指定することができます。預貯金の解約や名義変更など、相続発生後にさまざまな手続きが必要となるため、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことを検討してもよいでしょう。
◇ 遺贈
法定相続人以外の人などに財産を承継させることを「遺贈」といいます。例えば、相続人ではない親族や、お世話になった方などへ財産を遺贈する旨を遺言書に記載することができます。
◇ 子の認知
遺言によって子を認知することもできます。
◇ 推定相続人の廃除・廃除の取消し
一定の要件に該当する場合には、遺言によって推定相続人の廃除や、その取消しの意思を表示することもできます。
付言事項
付言事項とは、財産の分け方などの法的な内容とは別に、遺言者の気持ちや家族へのメッセージなどを記載するものです。
例えば、
「長年介護をしてくれた長女に自宅を相続させたい」
「これからも兄弟仲良く助け合ってほしい」
など、財産の分け方を決めた理由や家族への感謝を記載することができます。
付言事項そのものに法的な効力はありませんが、なぜそのような遺産分割を希望したのかを伝えることで、相続人の理解につながる場合があります。
遺言書作成の注意点
◇ 遺留分
一定の相続人には、法律上最低限保障される「遺留分」があります。
遺留分を侵害する内容の遺言書を作成したからといって、その遺言が直ちに無効になるわけではありません。
ただし、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があるため、遺言書を作成するときには遺留分にも注意する必要があります。
◇ 不明確な表現を避ける
誰に、どの財産を、どのように承継させるのかが分からない表現は、相続開始後のトラブルにつながる可能性があります。
できるだけ内容を明確に記載することが重要です。
◇ 財産を正確に特定する
不動産については登記事項証明書、預貯金については通帳などを確認し、対象となる財産を特定できるように記載します。
遺言書を作成する前に、ご自身の不動産、預貯金、有価証券などを整理して、財産目録を作成しておくと分かりやすくなります。
◇ 夫婦共同の遺言はできない
夫婦で同じ内容の遺言を希望する場合でも、2人が一つの遺言書に連名で遺言をすることはできません。
夫婦それぞれが別々に遺言書を作成する必要があります。
◇ 作成後も内容を確認する
遺言書を一度作成しても、その後に不動産を売却したり、預貯金が増減したり、家族関係が変わったりすることがあります。
遺言書を作成した後も、財産や家族の状況が大きく変わった場合には、現在の希望に合った内容になっているか確認することが大切です。
遺言書の保管
自筆証書遺言は自宅などで保管することもできますが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することもできます。
この制度を利用すると、遺言書の原本と画像データが法務局で保管されるため、紛失や改ざんなどを防ぐことができます。
また、法務局で保管されている自筆証書遺言については、遺言者が亡くなった後の家庭裁判所による検認が不要になります。
ただし、法務局では遺言書の形式について外形的な確認は行われますが、遺言内容についての法律相談を受けたり、遺言内容の有効性を保証してもらったりする制度ではありません。
相続の専門家への相談
遺言書は、自分で作成することもできます。
一方、不動産が複数ある場合、相続人以外の人へ財産を遺したい場合、相続人ごとの取得割合が大きく異なる場合などは、遺言内容によって相続発生後の手続きやトラブルの可能性も変わります。遺言書の書き方や内容に不安がある場合は、専門家へ相談しながら作成する方法もあります。
公正証書遺言を作成する場合には、必要な戸籍や財産関係資料の収集、遺言内容の整理、公証人との事前調整などを専門家へ依頼することもできます。
まとめ
遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように承継してほしいのか、その意思を残すための重要な書類です。特に自筆証書遺言は手軽に作成できる一方、全文・日付・氏名の自書や押印など、法律で定められた方式を守る必要があります。
また、遺言書は「作成すること」だけでなく、財産を正確に把握すること、相続人や遺留分を確認すること、相続開始後に実際に手続きできる内容にしておくことも重要です。
ご自身の状況に合った方法を選び、必要に応じて専門家への相談も検討しながら準備を進めましょう。